เข้าสู่ระบบ話は戻ってゆきが初めて体育の時間に注目を浴びた、その日の夜。
約束していた動画投稿見学のときに今日のわたしの体育の話になってそれを唯一見ていたあか姉が他の姉妹から羨ましがられていた。
特により姉は年齢的に同じ学校に通うことは小学校の時の1年間しかなかったので余計にうらやましいみたいで、部活の助っ人に参加することとなったことを知るとあか姉に録画してくれるように依頼をしていた。
普段見る機会がないとはいえ学校での姿を見たいというより姉の気持ちが嬉しいような恥ずかしいような。
わたしのかっこいいところを見たいってことなのかな……。
そう思うとなんかこそばゆくなって照れくさくて、顔が熱くなってしまう。それはまだわかるんだけど、この胸の高鳴りはなんだろう。
ドキドキしてしまってより姉の顔をまともにみることができない。
「それじゃ、まずは歌の収録からやっていくね」
動揺を隠すためにも今日の本来の目的である投稿動画の収録を始めることにした。
生配信の時は口パクを絶対しないのがわたしのプライドでありポリシーなんだけど、投稿動画に関して
は歌とダンスを別撮りにしてある。ヘッドセットが邪魔にならず思い切り踊れるというのもあるけど、複数のカメラで同時撮影した動画を編集してMVみたいなスタイリッシュでかっこいい動画にしたくて楽曲は別で流している。
まだ勉強中なのでカメラは3台しかないし編集もまだまだだけどそのうちプロが作ったようなものにしたいと思って猛勉強中。
別撮りと言っても完全に口パクなわけじゃなくてマイクをつけていないだけで毎回ちゃんと歌いながら踊ってる。
わたしにとっては歌とダンスは切っても切り離せないもので、歌いながらの方がリズムやステップが合わせやすいから。
ただあくまでも別撮りだから曲だけに興味がある人や、編集で少しは見栄えも良くなったダンス動画を見たい人は投稿動画をメインに見るし、あくまで口パクなしのダンスパフォーマンスに関心がある人は生配信の方で楽しんでもらえる。
加えてやっぱりリアルタイムでリスナーとのコミュニケーションを取れるのが生配信の醍醐味であり大事な要素。
投稿頻度って大切だから動画、生配信ともに手抜きしたりせずに真心こめて制作しているんだけど、歌って踊るだけの動画投稿よりはリスナーと直接対面する生配信の方がその日どんなことを話題にするか考えておく必要もある。
飽きられず楽しんでもらえるよういろんなネタを用意するのが一番大変だ。
会話の流れによってはセンシティブな内容に踏み込んでしまうこともあるので、姉妹たちには生配信をみせることはできない。
ただそれだと家族にはわたしの歌を聴かせないということになってしまうので投稿動画の収録見学をしてもらおうというわけだ。
曲はもう作ってあるので、まずはそれに歌声をのせる録音からなんだけどよく考えたら姉妹たちの前で歌声を披露するのはかなり久しぶりなことのような気がする。
アメリカで新曲を出すときに聴いてもらったけど、すぐに修業期間に入ってしまったのでそれ以降はみんなの前で歌っていない。
久しぶりすぎて少し抵抗があるというか純粋に恥ずかしさがあるんだけど、約束もしてたし何よりみんなわたしの歌が聞けることをめちゃくちゃ楽しみにしてくれている。
だからいっそ今日は家族サービスと思って、恥ずかしい気持ちは忘れて思いっきり情感込めて歌い上げることにする。
誰かを招くこともあるだろうと休憩用も兼ねて設置しておいた大きめのソファーがちょうど役に立った。みんながそのソファーに座ってじっとこちらを見てる。
今日までの努力の結果、よく聴いていてね。
茜にゆきの部活風景の録画を依頼した後、ソファーに座って歌の準備が整うのを待つ。ワクワクしながら以前聞いた時の事を思い出していた。やがて演奏から始まり美しい歌声が耳朶をなでるように響いてくる。数年ぶりに聴くゆきの歌声に衝撃を受けた。
ずっと歌やダンスの勉強と練習をしていたのは知っていたけど、ここまで上達しているとは予想以上だ。
子供の頃からずばぬけて可愛かったゆきは当初その容姿で芸能界へスカウトされたんだけど、すぐに歌の才能を見抜かれてふわふわダンスのもとになった歌を発表。
幼い子供とは思えない歌唱力とダンスで社会現象と呼べるほどに大流行したんだけどその歌声はもはやあのころとは別次元で、もう十分にプロとして活躍していけるレベル。
やっぱりゆきは天才だ。
ゆきのことだからまだまだ上を目指していくのは間違いないのでこれからどこまで昇っていくのか末恐ろしい。
茜は目を閉じて自分の世界に入り込んで聞き入ってるし、楓乃子と陽愛はすでに泣いている。気持ちはよくわかる。かくいうあたしもすでに胸がドキドキして顔も熱くて仕方ない。他の三人も顔が真っ赤だ。
だっておもいっきりラブソングなんだから!ポップな曲調だけど、歌詞が片思いの相手に向けた情熱的な恋心をつづったもの。
それを生歌で、しかも至近距離で歌われた日にはまるで自分だけに向けられたメッセージみたいに勘違いしてしまうのは不可抗力!
それをしっかりと情感込めて歌ってくるんだからそりゃ感涙にむせぶのも仕方ないってもの。
あたしもさっきからやばいけど、極力平静を装おうとしているのは自分でもよくわからんが長女としての意地みたいなもんか。
でも途中まではなんとか耐えてきたけど最後のサビに入ってゆきが目線をこちらへ向けるようになったのでとうとう涙腺崩壊。
こっちを見て何度も『大好き』って連呼されたら陥落必至!赤面爆発!ただでさえ姉妹みんなブラコンなのにそんなことされたらもっと重症化するに決まってるじゃないかよ……。
狙ってやってるのか?つってもまぁゆきのことだから無自覚なんだろうけど……。
涙腺は崩壊したけどどうにか正気を保ったまま曲が終わって、ゆきが録音スイッチをオフにした途端3人はゆきに飛びついていった。
「めちゃくちゃよかったよ、ゆきちゃ~~ん!」
陽愛が真正面から抱き着いて胸のあたりに顔をうずめてグリグリしてる。
「ゆき、大好き」
「お姉ちゃんに聴かせるのにこの曲をチョイスするとはさすがゆきちゃんです~」
茜はゆきの頭を抱きかかえて、楓乃子は右腕を抱きしめてスリスリ。もう完全にゆきの歌にやられちゃってるな。
あたしは長女としてそんな姿を温かい目で見守る……なんてできるわけがない!羨ましいに決まってる!
当然空いてる左腕を確保。ゆきの温もりをめいっぱい感じてすごく幸せな気分。
そのままほっぺにキスでもしたい衝動にかられてしまったあたしが実は一番重症かもしれん。
「そんなにみんなでくっついたら暑いってば~」
ゆきからそんな苦情が出てるけどまんざらでもないみたいだし離す気もないから当然のごとく却下。あんな曲を選んだ責任をとってしばらくもみくちゃにされてなさい。
満足するまでゆきを堪能した後、次はダンスを収録するというのであたしたちはほくほく顔でソファーに戻った。
アメリカではメディアへの露出がなかったに等しいのでダンスを見せてもらえるのはそれこそ子役の時以来になる。
子役の時のダンスもかわいかったけど、それがどんな風に進化しているのか期待に胸が膨らんできた。
曲が始まってゆきの体が動き出す。そんなにアップテンポの曲ではなかったのでダンスも激しいものではないんだけど、そんなことは関係なく始まるなり見入ってしまった。
さっきと同じ曲だから熱烈な恋心を聞かされてまた赤面しそうだったけど、今回は曲よりもゆきのダンスに見入ってしまい照れている場合ではなくなった。
専門家ではないのでどこがどういいとか詳しくは説明できないけど、とにかくキレイだ。
特別な動きでもないちょっとした腕の動きなんかにも洗練された美しさと言うか色気が漂っているような気がする。
時に激しく時に妖艶に、しなやかな動きとキレのある動きが組み合わさり見事としか言いようのないパフォーマンスに目が離せない。
他の姉妹の顔を見てみると、まるで美術館で心を打つ絵画を見た時のように恍惚とした表情で食い入るようにゆきを見つめている。
ゆきは普段の所作からしてキレイで感心することも多い。それがダンスにも活かされているのか腕や足の上げ下ろしといったような単調な動きでさえここまで流麗で芸術的なものになるものなんだなと感心する。
足先から手の指先の動きまで、どうやったらこんなに美しく見えるように動かせるのか不思議なくらい、どこをとってもしなやかでキレイ。
ダンスを見て鳥肌が止まらないのは生まれて初めての経験だ。
ゆきには底がないんじゃないかと思うくらいのポテンシャルがきっと秘められている。
だからただでさえ完成されているように見えるこのダンスもこれからさらに洗練されていくんだろうなと思うと、いつまでもそばで見ていたいという欲求があふれてくる。どこまで成長していくのかずっと見守っていたい。
この気持ちはきっとここにいるブラコン4姉妹がみんな抱いている想いに違いない。
曲が終わって最後のポーズが決まっても、さっきと違って誰もゆきに駆け寄ったりしない。
みんな芸術作品や名作映画を見た後のように感動の余韻に浸っている。かくいうあたしもそうだ。
駆け寄るどころか無意識のうちに立ち上がって拍手をしていた。4人だけのスタンディングオベーション。
言葉であれこれ言うよりふさわしいような気がして、最大の賛辞を込めて惜しみない拍手を送る。ゆきは少し照れながらもものすごく嬉しそうな顔をしている。
今はたった4人だけれどいつか何万人、何十万人もの観衆から雷鳴のような拍手を浴びる日が来るに違いない。
そう考えるとその場面が目に浮かぶようで涙があふれそうになる。すごく楽しみだ。その場面をお姉ちゃんに一番近くで見させてね。
愛情込めて精いっぱい歌い切った。ちょっと選曲がアレだったかなとは思うけど元々予定していた曲だしあくまでも歌だしね。
けどちょっと意識してくれたりなんかして……ってそんなわけないか。
照明の配置上マイクのある場所よりもソファーのある位置の方がちょっと暗くて表情は良くわからなかったけど、ダンスが終わった後にいっぱい拍手をくれたからおおむね好評だったみたいだけど。
「みんなに見られてちょっと緊張しちゃったよ。わたしの歌とダンス、どうだった?ちゃんと歌えて踊れてたかな?」
コメントでいろんな人からの賞賛の言葉はもらえるけど、少しは身内視点からの感想も聞いておきたい。
キリママが気合を込めて可愛く作ってくれたアバターのおかげでかわいいとチヤホヤされている現状ではリスナーの評価が甘くなっている可能性があるので、そういったフィルターがない家族なら忌憚のない意見を聞かせてくれるだろう。
改善できる点があるならどんどん改善してもっと上を目指したい。そしてもっとたくさんの人に聴いてもらって、より多くの人に幸せを届けたいから。
「感情がこもった歌声に胸が熱くなったよ。歌唱テクも以前の比じゃないし、声量もやばくて思わず感動して泣いちゃった!歌ってここまで心を動かすものなんだなって再認識させられたよ。ダンスもすっごいキレイだったよ」
ひよりが興奮気味に賞賛してくれた。実際に泣いていたようでかの姉とひよりは目が赤くなって腫れている。
「心に響く歌唱力はそこらのプロでも太刀打ちできないと思う。しなやかなダンスはまるで芸術作品を見ているようだった。細部まで動きが洗練されていて、そんな繊細な動きはアバターでは表現できないからVtuberでやっていくのはもったいないくらい」
あか姉は冷静ながらもべた褒めなのは同じ。いつもより饒舌なのは少し興奮しているのかな。
アバターでもないし画面越しでもない生で見ている分、細かいところまで良く見えたおかげでよりレベルが高く見えたかもしれない。
「本当に最高でしたわ」「文句のつけようがない」かの姉とより姉も口をそろえて賞賛してくれる。
結論。いろいろ条件に違いがあるとはいえ、身内の方が評価甘々だった。
まぁそれだけわたしのことを好きでいてくれているということだから嬉しくはあるんだけどね。
リスナーのみんなからも家族からもみんなに褒められてるんだから少しくらいは自信を持ってもいいのかな。
「ありがとうね。みんなに褒められて少し自信がついたよ!でもそれで慢心しないようにもっと精進しないとね!」
「慢心なんてゆきはしないだろ。いつだって努力してるのはわたしらもずっと見てきてるよ。だからわたしらが褒めたのは本心からだし、もっと自信もっていいんだよ」
より姉がそう言って微笑んでくれる。いつも否定せずに受け入れてくれるこの姉妹に囲まれて今までずっと支えられてきた。
この賞賛と期待を裏切らないようにもっと上を目指して結果を残したい。
もっとたくさんの人に聴いてもらえるようになったらきっとそれが一番の恩返しになる。まずは目指せチャンネル登録者100万人!頑張るぞ、おー!
リスナーさんの前で復帰祝いの唄を披露し、失敗してしまったあの日から一年以上の月日が過ぎて、わたしは二十二歳になった。 そして今、わたしはある一室にいる。 「わたしはもっとみんなの近くで唄いたい!」 そう宣言してから半年以上、わたしはリハビリとボイトレに励み、そして自分の声を完全に取り戻した。いや超えた。 かつての音域からさらに半オクターブ、広げることができたのだ。 そしてわたしはボイトレに励みながら、ある計画を実現させるためにかつての自分の考えを覆す決断をしていた。「それではその時は全面的にプロデュースをお願いするということで。利益の取り分は書面通りで構いません。よろしくお願いします」 かつて大阪で琴音ちゃんを通じて知り合った女性プロデューサー、五代さんに向かって頭を下げる。「こちらとしてはどんな条件であれ、ゆきさんに来てもらえるなら大歓迎です。でも一体どういった理由で心変わりを?」 芸能界という世界を毛嫌いし、関連するようなところとは極力距離をおいてきたわたしが突然こんなことを言いだしたのだから、疑問に思うのも当然だろう。「確固たる目的のためです。わたしが以前、脳の障害で一年以上昏睡状態にあったのはご存知ですよね?」 黙って頷く五代さん。 ネットどころかオールドメディアでもニュースになったような出来事だから知っているのは当然だろう。いや、その仕事からしてたとえニュースにはなっていなくとも、彼女ならそのネットワークで情報を得ていただろうと思う。「元々わたしは幼いころから脳の障害を抱え、余命も宣告されていたことから生きることに対して諦めの気持ちがありました。だけどそれを変えてくれた人たちがいた」「お姉さん達ですね」 意外な人から突然核心をつかれてしまったことに驚き、わたしは目を見開いた。どうしてこの人がそのことを? わたしの疑問が顔に出ていたのか、五代さんはふっと笑うと以前は見せることのなかった柔和な表情を浮かべた。「ゆきさん、わたしは何も企業利益だけを考えてあなたに声をかけたわけじゃありませんよ。わたし
「みんなただいま!」 ようやく帰宅許可が下り、無事退院となったその日。 我が家では家族全員が休みを取って快気祝いのパーティーを準備してくれていた。「「「「おかえり!」」」」 声を聞くだけで分かる、心から待ちわびていた祝いの言葉。 お母さんから始まって、家族全員とハグをした。この辺はアメリカ生活をしていた名残なのかな。 お父さんは少し恥ずかしそうにしてたけど。息子相手なのになぁ。「それで、もう日常生活に支障はないのか?」 より姉が気づかわしげな視線で尋ねてきたので、わたしは元気をアピールするために腕をぐるぐる回してみせた。「この通り、すっかり元気だよ! まだ激しい運動は止められているけど、軽い筋トレくらいなら大丈夫。日常生活の筋力を取り戻すためにも家事は積極的にやってくださいだって。だから明日からはまたわたしがご飯を作るからね!」「……!」 みんな声にならないほどの衝撃を受けている。え、わたしがご飯を作るのってマズイ?「ま、またゆきのご飯が食べられる……」 両手で口を押さえたお母さんが感涙にむせぶ。えぇ、そんなに!? かの姉とあか姉は無言で両手を天高く突き上げている。一片の悔いなし? そしてより姉とひよりに両サイドから抱き着かれてしまった。「一年半ぶりのゆきちゃんの手料理! もう今からお腹が空いてきたよ!」 明日まで待ってたら餓死しそうだね。「いかん、よだれがとまらん」 本当によだれを垂らしてしまうより姉。乙女のする顔じゃないぞ。 でもこんなに待ち焦がれてくれていたとなれば腕が鳴るというもの。明日は目いっぱいご馳走を作ろう。「でも思ったよりも早く退院できましたね」 ようやく気分の落ち着いたかの姉がオードブルの並んだ食卓につきながら、感心したように言って来た。「そうだね。若さもあるけど、それ以上に頑張ったしね」 最初は半年の予定でリハビリプログラムを組
立てるようになってからのリハビリは、想像していた以上に大変だった。 平行棒、杖、歩行器を用いて転倒防止に注意しながら、重心移動や筋力向上、正しい歩行様式を取り戻していくのは一朝一夕にできるようなものではなく、なかなか思うように動いてくれない体に苛立ちを覚えつつも地道に筋力を蓄えていく作業。 下手に頑張りすぎると逆効果になると分かってはいるけど、一日も早い復帰を願う気持ちはなかなか抑えられるものでなく、遅々として進まないリハビリプログラムにヤキモキしていた。「さすが若いだけあって回復が早いですね」 歩行訓練後のマッサージをしてくれながら、理学療法士の飯島さんがそう言ってくれる。「自分では回復が遅く感じてしまい、どうしても焦ってしまうんですけどね」 どうしても頭をもたげてしまう焦りの心。 愚痴をこぼしたところでどうにもならないとは分かっているけど、ずっと優しく指導をしてくれる飯島さんにはつい甘えてしまう。「早くおうちに帰りたいですもんね。でもね、わたしもあなたのファンだから言うけれど、待っている側からすれば焦って戻ってきて取り返しのつかない後遺症が残るくらいなら、何年でも待つから万全な状態で戻ってきてほしいと願うものですよ」 優しい手つきでふくらはぎを揉み解しながら、それ以上に優しい笑顔を見せてくれる飯島さん。 リハビリが始まった当初からわたしのファンを公言していて、担当が決まった時には飛び上がって喜んだそうだ。 そんな熱心なファンをしてくれている彼女の言葉だから信じたいけれど、どうしても不安な気持ちは拭えない。「飯島さんはそうかもしれませんけど……」 八つ当たりにも似た発言だけど、飯島さんは気分を害した気配すらなく、穏やかに話を続けた。「不安になるのも分かりますけどね。ファンを信じるのもアーティストとしての務めじゃありませんか?」 ただの弱気の吐露にも関わらず、温かい表情で返ってきたその言葉に、わたしの中の何かが動いた。 今まで明確に意識したことはなかったけれど、わたしもアーティストの端くれな
リハビリをやり始めてから比較的すぐに自力で立ち上がれるようになった。 だけど、そこからが過酷な日々の始まり。 最初は一歩二歩と歩くだけで滝のような汗をかき、心拍数も爆上がりしてしまったのでその時点でリハビリ中止。 その後も数日間はトライしては中止の繰り返しで一向に進まない。 そこで体力の回復が先決だと判断した先生の指示により、立って歩くよりも先に長時間座ることから始めることにした。 ただ座るだけと思って侮っていたけれど、すっかり体力の衰えてしまった体にはこれが存外キツイ。 スマホを触って気を紛らわせているとはいえ、最初は二時間程度で音を上げてしまった。 だけどそれも繰り返すうちにだんだん苦ではなくなっていき、半日座っていられるようになった頃にはかなり体力も回復していたようだ。 その後に始まった歩行訓練でも最初のように滝の汗をかくことはなくなり、ようやく日常生活に向けての第一歩が始まった。「今日はね、リハビリ室の端から端まで歩けたんだよ」 嬉しそうに報告するわたし。「ふーん」 なんだか気のなさそうな返事をするより姉。「あれ? なんか怒ってる? わたしのリハビリが進んでるのが嬉しくない?」「いや、そんなわけないんだけどな。ゆきがどんどん元気になっていってるのはそりゃ嬉しいさ。でもな」 なんだろう。リハビリとは関係なさそうだし、他に何か怒らせるようなことしたっけ?「ゆき、何か報告しておかないといけないことを忘れてないか?」 報告? ずっと病院にいるわたしがリハビリのこと以外で何を報告することがあると言うんだろう?「何のこと?」 本当にわからない。わたしがより姉を怒らせるようなことなんて皆目見当もつかないよ。「茜とのことだ」「ひうっ!」 突然あの日のことを突きつけられて、ビックリすると同時に思い出してしまったので変な声が出た。「なんだその奇声は。茜が自慢気に話してたのは本当だったのか……。てっきりあいつの作り話だと思ってたのに」 カマかけられた! でも本当のことだから嘘をつくのもなぁ。「それで、だ。ゆき」 改めてわたしの方へと向き直るより姉。対して被告人よろしく姿勢を正すわたし。「正妻の立場としてはだな。茜がしてもらった以上は同じことをしてもらう権利があると思うんだが」 いや、あれはわたしの方からやったわけじゃな
「みなさん、こんにちは。どうもご無沙汰してました。雪の精霊、YUKIが今日もみんなに幸せを届けるよ! とまぁかつてのテンプレ挨拶をぶちかましたわけですが。みなさん、本当に長い間お待たせしました! ゆきはこの通り見事復活を果たして今ではピンピンしていますよ。 眠りこけていたおかげですっかり体がなまってしまったので、しばらくリハビリが必要なんですけど、またみんなに歌声を届けられる日が来るのも近いです」 ひよりに撮影許可とノートパソコンを頼んだ次の日、今日の当番だったあか姉が許可を取れた情報と共に届けてくれた。 そのパソコンを使ってさっそく配信予約を取り、夕食後の十九時に配信を開始した。 配信の告知をしたのは昨日なのに、みんな余程待ちかねてくれていたのか同接は60万人オーバー。 倒れる前の50万人を大きく上回る結果となった。「たくさんの人が見に来てくれて、それだけわたしの歌声がみんなに求められているんだと思うと感無量です。変わらぬ応援にとても感謝しています」 あまりのありがたさに思わず涙ぐんでしまう。だって一年以上ものブランクがあって、それでもこれだけの人が集まってくれるのが嬉しくて、ありがたくて。【歌ももちろんだけど、ゆきちゃんの顔が見たかった】【元気そうで安心した】【ゆきちゃんの姿を見たら涙が出てきた】【ほんと、おかえりなさい!】 歌だけじゃなく、わたし自身をも待ってくれていたというコメントに、とうとう涙が溢れてしまった。 あーあ、本当にわたし涙もろくなったよなぁ。男のくせにみっともないとは思うけど、止められないものはしょうがない。「みんな本当にありがとうね。一日も早くみんなの前で唄って踊れるよう、毎日リハビリ頑張ってるんだ! だからほら、一週間でもう立てるようになったんだよ」 そう言ってノートパソコンをテーブルの上に置き、立ち上がろうとするわたし。 まだ安定性には欠けるけど、どうにか自分の足で立ち上がることが出来た。隣であか姉がハラハラしたような顔で見てるけど。【あんまり無理はしないで】【ワイらはいつまでも待ってるから】【生まれたての小鹿みたいになってるやん】【怪我する前に座って!】 うちの姉妹だけでなく、リスナーさん達もわたしには過保護だな。「これくらい大丈夫だって。なんならターンしてみようか?」 調子に乗ってターンをしよう
日々続くリハビリは、思った以上に大変だった。 まずは寝返りや座ることから。最初の内はそれすらも大変で、どうにか寝返りを打てると言った状態だった。 それから座ることも難なく出来るようになったかと思ったら、息つく暇もなく自力で車いすに乗ることを特訓。 これが想像以上に困難なことで、立ち上がろうとしても膝が笑って上手くできない。看護師さんの介添えがあってようやくといったところ。「えへへ。密着出来て幸せぇ」 一部、邪な考えで介助してくれている人もいるけれど。 一度より姉に見つかって、ナースステーションで担当替えを真剣にお願いされていた。できればわたしも替えて欲しい。 でも決して手は出させませんという言質を得て、どうにか引き下がっていたようだ。そこで納得しちゃうのね。 わたしの不安な気持ちと、あの舐めるように見てくる気持ち悪い視線からは解放してくれないのだろうか。 病院も人手不足なのはわかるけど、あんなのを特別病棟に配置して評判に関わったりはしないんだろうかと心配になる。「今まではもうちょっとマシだったんですけどね」 他の看護師がそう言ってフォローしてたけど、正直何の慰めにもなってませんよ? むしろエスカレートしてるってことで余計不安になったわ。 だけど車いすに乗って久しぶりに外へ出たのは気持ちがよかった。すっかり忘れかけていた風の匂い。 そこには微かに草木の匂いが混じり、まもなく訪れる生命が謳歌する夏の気配を感じさせる。でも今日は少し湿っぽい匂いも混じっているから、雨でも降るのかな。 以前と違って色が見えるようになったわたしは、外の景色をいくら眺めていても飽きることがない。 目を凝らせば色というのはあちこちに散らばっていて、普通に暮らしていれば気づかないようなところにも鮮やかな色が潜んでいる。 例えばビルのひび割れから生えた生命力に溢れた雑草の緑。暗いアスファルトの隙間から顔を覗かせるたんぽぽの鮮やかな黄色。 普通の人なら気づくことなく通り過ぎてしまうその景色も、今まで違う世界を見ていたわたしには物珍しい。 部屋にいてもスマホやテレビを見ている時間より、窓の外を眺めている時間の方が長いくらいだ。「なぁに、また外を見てるの?」 今日はひよりの番なのか。「うん、今日も外の景色がキレイだからね」「やっと見えるようになっ
しくしく……。「ほらぁ、会長いつまでいじけてんの」 会長席に体育座りをしているわたしに向かい声をかけてくる睦美先輩。 他人事だからそんなこと言えるんですよ……。「人間苦手なもののひとつやふたつありますわよ」 佳乃先輩もお化けにがてなのかな?「まぁお化けが苦手というのは子供っぽくてかわいいですわね」 裏切り者!やっぱり子供っぽいって思ってんじゃん! 昨日の大騒ぎでみんなにバレちゃったよ…&he
「着いたぁ!」 電車に揺られること40分。わたし達5人は最寄りの海水浴場に到着した。 より姉が自動車免許を去年取ったので、レンタカーを借りようかと言う話も出たんだけど海で泳いだ後は絶対眠くなるとわたしが猛反対して結局電車で来ることにした。 より姉だけに負担をかけるのは嫌だし、帰りの運転を気にして楽しめなかったらもっと嫌だからね。 ただ、電車で着たことによって解決できなくなってしまった問題がひとつだけある。 わたしがどこで着替えをするか、ということだ。 わたしが普通に男子更衣室に入っていくと騒ぎ
雪乃さんとのコラボも神回認定で終わり、この企画のお相手はレイラさんを残すのみとなった。 紡さんの時と同じく雪乃さんとのお別れにも寂しさはあるけど、いつまでもそれに浸っているわけにもいかない。 せっかく応募してくれて、その中から選ばれた3人だ。 その全員に同じ熱量で向き合うのが当たり前だし、誰に対しても平等に接するのがわたしの矜持でもある。 そう思い自室のベッドに腰掛け、レイラさんのチャンネルを開き内容を確認する。 歌の内容はわたしと同じスタイルでオリジナルと歌ってみた、そして生配信といったコンテンツが並んで
わたしはまたバルコニーに出て空を眺めている。 体育祭も終わり少し経つと朝晩はすっかり冷え込むようになってきた。 24節気でいうとまもなく『霜降』で、文字通り霜が降りてくるようになる時期だそうだ。 地球温暖化の影響かさすがにこの時期に霜が降りることはないものの、夜になればさすがに肌寒い。 体育祭以降はこれといって大きな学校行事もないので、わたしにとってはVtuberとしてしっかり活動ができる貴重な時期。 配信活動の方も順調そのもので、先週登録者120万人突破記念の配信をやったばかり。 年内には